京都 宮川町「安久」。
閑静なこの街で、いかにも誠実そうな33歳の料理人が営む、6席だけの割烹。
かぶら蒸し、赤貝と分葱のてっぱい、焼き穴子の巻寿司、平目の子と蕗の炊きわせ、こしびの中とろ、海苔、ワサビ、おろし添えと、小気味のいい皿が続く。
葛でたたいた伊勢海老は、極少量の塩と薄口を入れた湯でさっとゆがいてある。
火の通しが精妙で、海老は甘い香りを放ちながら、エレガントな肉質が歯の間で弾け、優しい甘みを漂わす。
葛にほんのり染みた、塩味と旨味がそっと海老を支えている。
さりげなくありながら、伊勢海老への敬意と客への思いやりが行き届いていて、しみじみとうまい。
これが料理だ。
その後、丸吸の深々とした滋味、きめ細やかな餅で挟んだカラスミと続き、酒粕漬けののどぐろを焼いて、味付けた出汁地に浸し、実山椒を散らした魚料理にもしびれた。
最後は、牡蠣茶漬け。
甘辛く炊いた牡蠣の茶漬けだ。充足のため息漏れる、実長な味わい。
まいったぞ。
看板も暖簾もなき割烹で、我々だけが独占した、攻めや引きの、絶妙な間合いに翻弄される料理。
東京ではありえない時間に、とっぷりと酔った。
京都 宮川町「安久」
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